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2005年12月26日

科学者の倫理

最近、韓国の研究者によるES細胞研究についての疑惑が話題です。日本でも少し前に、RNAに関する研究について「論文に不正がないと断言できない」という事件がありました。

RNAの件については、はからずも少し詳しいことの成り行きを知る機会を得ました。今学期唯一受講している物理学専攻の授業、「科学コミュニケーション論」でRNAに関する発表をしたのです。この課題は「シャノンの情報理論」「RNAの最新研究」「M理論」「ボーズ・アインシュタイン凝縮」について、一般の方に説明するつもりで15分程度プレゼンをする、というものでした。私は同じく天文学専攻の2人と一緒にRNAを担当しました。

RNAの最新研究ということで、『RNA干渉』について調べました。DNAが設計図となって体内のタンパク質が作られるわけですが、設計図であるDNAをコピーするのが基本的なRNAのはたらきです。そして最近わかってきたRNAのもうひとつのはたらきにとって重要なのがRNA干渉です。RNA干渉によって、余計な遺伝子(ウイルスの遺伝子とか、その部分では必要ない遺伝子とか)が発現するのを防ぎ、進化と成長の交通整理をするわけです。

RNA干渉を引き起こすのは短い マイクロRNA というRNAで、色々な種類の マイクロRNA がそれぞれ特定の遺伝子の発現を抑えます。鍵と鍵穴のように、対応関係があるわけです。

渦中の多比良教授が書いた文章が、別冊日経サイエンスに掲載されています。要約すると、

マイクロRNA "miRNA23" が Hes1遺伝子の発現を抑えることがわかった。これは雑誌ネイチャーのオンライン版で発表された。しかし Hes1遺伝子という名前の遺伝子は実は有名なものとそれほどでもないもの二つあり、miRNA23 が実際にはたらいているのはマイナーな方の Hes1遺伝子だった。これを他の研究者に指摘され、冊子版ネイチャーが出る前に慌てて実験すると、miRNA23は有名な方の Hes1遺伝子にも同様に作用することがわかった。
あるマイクロRNAが、同じ名前を持つ別々の遺伝子に作用していたのだ。


素人目に見ても、この研究結果は「ホントかよー!?」と唸ってしまうものだと思います。結果、その成果が掲載された論文は撤回されています。対象が有名なものであれば必ず誰かが追試するでしょうし、その成果をもとに次の実験が行われるはずです。いずれにしてもバレるのは時間の問題だったでしょうが。

天文学の研究でも、偽造をしようとすればできてしまうかもしれません。(まだ論文を投稿したことがないのであくまで推測ですが。)論文を捏造させない仕組みを、との声がありますが(朝日新聞社説)、具体的にどうやればいいんでしょう? すぐには思いつきません。天文学や素粒子物理など、巨大な装置を使い追試しにくいビッグサイエンスも多くあります。「抑止力」として厳しい罰を設定する必要があるかもしれません。天文学のような狭い世界では名前が知れれば研究の世界には残れないでしょう。本音を言えば、「抑止力」を持ち出されないと不正をやめないような科学者には科学者をやってもらいたくないですね。税金を使っているんだからとかいう前に、真実に向き合うということを忘れない科学者の気持ちをなんとか保持したいものです。不正を受け入れない態度、というものをしっかりと身につけるには、やっぱり子どもの頃からの教育が大事なのでしょうか。

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2006.07.13 追記。
国立天文台教授の事件もこちらに。

投稿者 平松正顕 : 23:45 | hiramatsu log

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コメント

匿名なのに、私には誰だか分かる・・・(^_^;)ありがとう。。。

投稿者 グッチ メンズ バッグ : 2012年11月10日 07:40

まぁ片想いであれば自分はシーズンで終わっちゃいそうですねパンダ

投稿者 ヴィトンバッグ : 2013年1月5日 21:27

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