2005年12月29日
失敗と成功 -はやぶさの場合
さて先日のエントリーを受けて、今回は「はやぶさ探査機」の話題です。はやぶさの奮闘はまだまだ続いていますが、日経新聞の清水正巳編集委員が「研究の失敗に寛容な風土はできるか」という文章を書いておられます。はやぶさ情報発信で大活躍された松浦晋也さんのblog「松浦晋也のL/D」で紹介されていたので、私も感想を述べておきます。松浦さんのblogのトラックバック/コメントされている文章を全部読んでいないので、どなたかの意見とほとんど同じことを言っているかもしれませんがご容赦を。
清水氏の文章は、
『日本の小惑星探査機「はやぶさ」による小惑星イトカワの探査ほど、成功したのか、失敗したのか分からないプロジェクトはない。(中略)成功も失敗もあやふやにして逃げを打つようなプロジェクトの進め方は、科学技術への失敗に寛容な風土を築くという点ではマイナスではないか。』という言葉から始まります。しかし、天文学や宇宙探査に限らず、これまでの研究プロジェクトであれほど詳細な進行状況が逐一発表されたプロジェクトはあったでしょうか? ロケット打ち上げでも、成功すれば1,2分の報道がなされそのあとは全くといっていいほど情報はなく、失敗すれば「開発と打ち上げにかかった費用は○○億円」と金額が前面に押し出されるだけです。そもそもはやぶさはJAXAのウェブにも前から明記されている通り、複数の到達目標が連結されたプロジェクトなのですから、個々の目標に関しては成功か失敗かの判断ができても、ミッション全体を通して成功と失敗のどちらか一方に決め付けることは非常に難しいのではないでしょうか。そもそも、そのようにどちらかに決め付けることが意味を成さないといってもいいかもしれません。うまくいった点もあれば、うまくいかなかった点もあります。はやぶさ探査機の元の名前は MUSES-C、MUSES は Mu Space Engineering Spacecraft:即ち工学実験探査機 の略です。各所に書かれている通り、工学実験テーマであったイオンエンジンの本格的利用と光学管制による自立飛行、小惑星とのランデブー・離着陸など、世界的に見ても一歩進んだ技術を実際に使って飛行したことは(たとえサンプル回収ができなくとも)大きな成果だったはずです。
清水氏のいう『失敗に寛容な風土』、これを作るには、しっかりとした情報の共有が不可欠です。成功か失敗か、それだけの情報では失敗に寛容になどなれるはずがありません。何を目指していて、どういう点がうまくいかなくて、どのような解決策が見出せそうなのか、それを理解して初めて、失敗に寛容になれるかどうかが判断できるのだと思います。
そしてもうひとつ、そのような風土をどの層に対して求めているのでしょうか。研究者?政治・行政?一般社会? 個人的な印象では、その風土から最も遠いのはむしろ清水氏を含めたマスコミの皆さんなのではないでしょうか。松浦さんのブログに逐一報告されていた記者会見での記者の質問にも、「成功なの?失敗なの?」というどちらかの『解答』を求める質問がよく出てきます。そして実際の報道では、下手をすると失敗の方が大きなニュースになって取り上げられかねない印象があります。もちろん失敗でもきちんと報道されるべきですが、それがどのようなミッションで何がどのようにうまくいかなかったのか、それがきちんと報道されるべきでしょう。開発にかかった金額を提示して納税者意識をあおって終わり、「大きな花火でしたね」という形の報道ではとても真実は伝わりませんし、失敗に寛容な風土も育めないでしょう。
清水氏の文章は以下の分で締めくくられます。
失敗してもそれを率直に認めずに取り繕ったり、失敗を恐れて低い目標を掲げるようになったりしては科学技術立国もありえない。見境なく研究費をばらまくような研究バブルは厳に戒めなければならないし、研究の管理や成果の評価はしっかりしなければならない。だが、志の高い研究には失敗しても研究費を惜しげもなく注ぎ込む度量も必要だ。総合科学技術会議は研究の善し悪しを見抜く力が一層求められる。これには賛成します。しかし松浦さんも指摘されたように、はやぶさ をめぐる認識の違いはこの結論を弱めてしまいます。
はやぶさミッションに関して、「おおすみ(日本初の人工衛星)以来の報道体制」が敷かれたことは、とてもよかったと思います。ランデブー、ロボット投下、複数回の離着陸と立て続けにイベントがあったことも継続的な報道につながったのだと思います。しかし(人手が足りないのは承知の上で)まだまだJAXAにも色々望みたいところはあります。当時、情報が一番速くて詳細だったのはJAXAのページではなく松浦さんのブログでしたが、これはやはり改善するべきでしょう。イトカワ表面への降下の時などはオフィシャルブログが立ち上がりましたが、人手不足からでしょうか、ミッションが佳境に入ると更新が止まってしまう、ということもありました。さらに気がかりなのは、最後に「資料採集に失敗の可能性大」との発表がなされたあと、一般には「なんかうまくいかなかったとかいうヤツ?」程度の認識しか残っていないのではないか、という点です。サイエンスゼロやクローズアップ現代では「はやぶさ」のまとめが行われていましたが、新聞や民放の番組でも各イベント時の断片的な報道だけでなく、同様のまとめ企画があるといいなと思います。
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コメント
突然訪問します失礼しました。あなたのブログはとてもすばらしいです、本当に感心しました!
投稿者 グッチ アウトレット : 2012年11月10日 06:09