2005年5月29日
Wireless USB と電波天文
観測やら研究会やらの準備で忙しく、更新できていませんでした。これからもしばらく停滞するかもしれません。。
最近のニュースで気になったこと。「無線USBの仕様決定」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0525/wusb.htm
http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/USNEWS/20050525/161445/
そこらじゅうで電波を出す装置が氾濫することは、宇宙からの微弱な電波を受信する電波天文学にとって脅威です。電波天文で使う単位には Jy (ジャンスキー)と呼ばれるものがありますが、これは 10^-26 W/m^2/Hz という大変に小さな単位です。1Jyの電波は1平方mのアンテナで周波数幅100MHzで受けると、その強度は 10^-18 W になりますね(あってるかな)。とっても微弱なことがわかっていただけるでしょう。しかし、例えば今後僕が観測しようとする天体は 200mJy くらいですから、これのさらに1/5ということになります。もちろん、暗い天体はいくらでもありますから、もっともっと弱い電波を受けようとする観測はいくらでもあります。
こんな微弱な電波を受ける電波天文学がナントカ生き延びているのは、周波数割り当てという仕組みがあるからです。この周波数は携帯電話、ここはテレビ、ここはラジオ、ここは電波天文、というふうに、周波数帯で割り当てがあり、基本的にはその範囲内で電波を出したり受けたりするわけです。天文学的に重要な水素(1.4GHz)や水メーザー(例えば20GHz)などが出す周波数は、電波天文用に保護され、他の用途に使われないよう取り決めがなされています。とはいえ、他の周波数帯から染み出してくる電波や、ある周波数の整数倍の周波数にも電波が出てくる高調波といったものも存在します。このように普通には微弱な電波も、電波天文にとっては大敵です。
とはいえ、産業界に比べれば電波天文なんて宇宙から来る電波のように弱い存在です。『便利』の名の下に周波数がどんどん産業界に割り当てられてしまえば、電波天文はそもそも存在できなくなります。衛星からも電波が降り注ぐ今日、電波天文学者は月の裏側にでも逃げなくてはならないのでしょうか。
国立天文台野辺山構内では無線LAN使用禁止、携帯電話も電波望遠鏡から半径数100m以内は使用禁止、ということになっています。
今回仕様が決まったというワイヤレスUSBは、Ultra Wide Band (UWB) という超広帯域の電波をばら撒く方式で、電波天文だけでなくほかの無線通信にも影響が出るのではないかと危惧する声もあって、日本ではまだ実証試験中と聞いています。便利な技術なのはわかるのですが、本当に他の装置に影響がないのかしっかりと試験をして、そののちに割り当ての結論を出して欲しいものです。
光害は割と一般的に知られるようになってきて、行政側も指針やら条例やらを出していますが、あまり知られていない電波天文における光害について書いてみました。これを読んでちょっとでも興味をもってくださる方がいれば幸いです。こういうのもしっかり outreach しないとね。
参考
電波天文周波数小委員会
国立天文台ニュース No.141 (pdf ファイル)
投稿者 平松正顕 : 01:27 | hiramatsu log
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余は如何にしてプログラマとなりし乎 : 2005年9月28日 16:32
コメント
「電波天文学なんかより、生活が便利になった方が良いに決まってるじゃん」という声に、我々はどう対応できるんでしょうかね。うーん。
投稿者 たかなし : 2005年5月30日 00:26
まず声を上げなければ、割り当てももらえないのです。というのは天文台ニュースにも書かれているけれども。声を上げて、その上で負けたんならそれは仕方ない。ちょっとでも仲間を増やして、こちらの声を大きくすることが大切。「データ転送時間が半分(ここ適当)になるより宇宙の姿がわかった方が面白くない?」といってくれる人を増やすのも大切。
UWBに関しては、電波天文だけじゃなくて既存の無線サービスにも影響があるかもしれないそうなんで、共闘できるところと一緒にやるのがよいのでしょう。
投稿者 平松正顕 : 2005年5月30日 04:14
申し訳ありません。2005年9月28日 16:30←このトラックバックは操作ミスにより間違った記事にリンクされています。16:32が正しいほうです。
一稿めを削除してくださるとありがたい。。。
投稿者 tetsu : 2005年9月28日 16:34
広大な宇宙から降り注ぐ電波と考えるとロマンがありますねえ〜。身近に素人が観測はできないものでしょうか?
太陽雑音はBS受信装置などを使えば簡単に、向ければ観測できそうですが、太陽以外ではどの程度なのでしょうか? 最近衛星受信のコンバーターで50K以下のもの多く見かけます。(20Kとか)野辺山の受信の数Kにかなり近づいてきましたが・・・・・
1m〜2m位のdish なら家庭でも実験できそうなのですが・・・・・!(2、4、5、10Ghz)
投稿者 クマピー : 2009年8月28日 10:07
カッコいい!興味をそそりますね(^m^)
投稿者 グッチ 長財布 アウトレット : 2012年11月10日 06:13