2006年12月26日
88億光年の彼方
僕と同じALMA推進室所属の研究員さん他の研究成果が大きく報道されました。88億年前の銀河に大量の分子ガスを発見、というニュースです。読売、毎日、朝日、日経、など。記者会見は金曜日にあったのになかなか報道されないなぁと思っていたら、論文掲載誌が25日発行だったのでそれに合わせたのですね。
国立天文台のトップページからも、詳細な報告のページに飛べます。きれいにまとまっているし、周辺の情報もたくさん掲載されてて読み応えのあるページです。
最近ブログを書く人も増えてきて、ちょっと検索するとこのニュースを取り上げている人がたくさんいることがわかります。「88億光年」とか「太陽5000個分」とか刺激的な言葉が多いので、気に留めてくれる方も多くいらっしゃるのでしょうね。元のニュースを見てなくてもそういうブログ読んで興味を持ってくれる人が増えるという意味で、さらに裾野はひろがっていくのでしょう。
某紙は最初「新星続々誕生」という見出しを出していたのですが、今は直されてますね。新しい星を新星と呼びたくなる気持ちはわかるのですが、天文学用語で新星って言うのは新しく生まれた星ではなくてむしろ死んでいくほうの星なので、ここでは不適切です。ということにツッコミを入れているブログもあったりして、よく知っている人もいるんだなぁと思ったりもします。
ブログでもうひとつ目に付いたのは、「88億年前の銀河を観測してるのに、なぜ結果を現在形で書くのか?」という、言われてみれば至極最もな疑問です。「大量のガスがある→あった」、「星が生まれている→生まれていた」という風に、過去形で書くべきではないかと。これまで僕もいろんなところで天文の話をしてきましたが、そういう意識のギャップはこれまで感じたことがなかったのですが、実はみなさんそういう違和感を持っているものなのでしょうか。天文学やってる人間は現在形を使うのが普通ですね。それは、特に観測に基づく話では、「現在」の姿を見ることができないので、人間の目に光が届いた時点を「現在」として扱うからですね。光の速さは有限ですから、「今この瞬間」の宇宙全体を見ることができるのは「神」のような存在でしかありません。もちろん理論的予測はできるので、「現在」を語ることが無意味ではないのですが。このあたり、日常の感覚とはどうしてもずれてしまうので、難しいところです。
さて、今回の観測が行われた野辺山のレインボー干渉計は6台の10m望遠鏡からなる野辺山ミリ波干渉計と45m電波望遠鏡とを繋いだ、ミリ波(波長が数mm、周波数なら100GHzくらい)では世界最高レベルの感度をもつ電波望遠鏡です。野辺山はすばらしい施設ですが、他の多くの研究機関と同様、残念ながら潤沢な資金があるわけではないようです。今回の記者発表は論文の掲載がこの時期だったので仕方ないですが、例えば来年度予算が決まる前に大きな研究成果の発表なんかできたら、少しは状況がよくなったりしないのかなぁ、と思ったりもします。そういう発表の仕方には賛否両論あるかもしれませんし、過当競争になって嘘の発表をするようになっては元も子もないのですが、成果を最大限に引き出すためには、そういう『狙ったプレスリリース』がもうちょっとあってもいいのかもしれません。
欧米ではクリスマスに合わせたいろんなリリースがでていたりするのですが、今回のプレスリリースも「クリスマスプレゼント」と思えばいいタイミングですね。NORADのサンタクロース追跡とまでは言わないまでも、タイムリーなプレスリリースがあるとより身近に感じてもらえるかもしれません。最近だと国土地理院が出した「硫黄島が隆起してる」発表は、意図していたのかどうか知りませんが、硫黄島の映画の盛り上がりにちょうどぴったりで、うまいなぁと思ったものです。
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