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2006年7月12日

研究費不正流用

このところ忙しくてネタはあるのですが更新が滞っておりました。

でもこの話は書かなくてはいけないでしょう。同じキャンパスにいるものとして。国立天文台教授の科研費流用です。
国立天文台から公式リリースは出ていないので、新聞記事で整理すると、

毎日新聞朝日新聞読売新聞日経新聞中日新聞

・太陽観測衛星の開発のため4年間に支払われた科研費3440万円のうち、
・学生に謝金として払った約185万円の中から
・185万円(朝日新聞) or 9万円(中日新聞)を返金させて、
・太陽観測衛星成功祈願のお札に8000円、
・研究室仲間の結婚式の祝電に1000円、
・国際会議の茶菓子代や業者に行くときのタクシー代に8万円を使用。
・さらに大学院生の旅費などに約175万円を使用。
・菓子代、タクシー代、院生の旅費は科研費として申請も可能だが教授は「知らなかった」らしい。

という感じでしょうか。中日新聞では還流させたのは9万円とのことですが、朝日では185万円と書かれていてどちらが正しいのかわかりません。

不正流用とされた185万円のうち8000円の成功祈願にマスコミがフォーカスしているのはそれが滑稽だからでしょうか。記事によっては185万円のほとんどを成功祈願にあてているような印象を受ける見出しもありますが、あれは誤解を招く良くない記事ですね。

学振研究員でもない普通の大学院生な私は科研費の詳細についてあまり知らないのですが、個人的な印象としては、
・神頼みする気持ちはとてもよくわかる(僕も観測する前には晴れることとトラブルが起きないことを祈る)けれど、それを科研費から出す気持ちはわからない。それくらい自分で払うべし。祝電も一緒。
・「知らなかった」というのは認識が甘いと思う。
・厳しい財政状況の中で衛星開発の予算だってぎりぎりだろうから、出張旅費を申請しても通らなかったのかな?

天文学のように明日の生活を物質的に豊かにしない学問は民間ではなかなかできません。となるとそれは国の管轄になるわけで、そういう学問を税金で支えてもらうためには何より国民の信頼が必要だと思うわけですよ。すばる望遠鏡の観測成果に対して、1人1年に40円くらいなら払ってもいいかな、とか。今回の件は科研費を投資信託に回した早稲田大教授の事件とは質的にも金額的にも大きな違いがあると思います。しかし、こういう事件があると信頼は崩れるでしょう。韓国のファン教授事件あたりからの一連の不祥事で「科学者は信じられない」という印象が広まっているかもしれません。

前向きな話として、ではどうすればこういう不正が防げるのでしょう。過度の成果主義だとか、業者との癒着とか、必要な研究費が得られなくてとか、逆に大量の研究費を交付しすぎだとか、ケースバイケースなので、万能特効薬はすぐには見当たらないでしょう。「モラルの問題」といって精神論に押し込めても解決されないのは目に見えています。罰則を設けたって極端な話「見つからなきゃいい」ということにもなりかねないし、書類を厳格にしても研究のための研究者なんだか科研費の書類を書くための研究者なんだかわからなくなりそうだし。研究所や大学ごとの監査をよりきちんとやる、というのが現実的な解なのでしょうか。ただこれにかけるコストが大きくなりすぎてもそれはそれで問題な気もします。

もし今回のように「正規に申請できるの知らなかった」というケースがあるのなら、研究室にも会計担当者をつけて情報をしっかりと共有すべきでしょう。あるいは、いっそのことある程度柔軟に支出を認める仕組みというのも一考の価値があるでしょうか。もちろんお札購入ではなくて旅費などの本当の必要経費に対してです。しかしこれは科学者を信頼してもらわないと成り立たない仕組みですので、すぐには難しいでしょう。んー、あまりいい考えが浮かびませんが、研究者にとって使いやすく不正のしにくい制度を、研究費を使う側が提案していくことも必要だと思います。そうじゃないとどんどん使いにくい方向に行ってしまいそうですので。

今回の件に関しては、お札と祝電代9000円は責められても仕方ないですが、そのほかのお金は研究のために必要なものだからきちんと申請すべきものだったわけですね。申請ができていれば、あるいは申請できることを知っていれば、謝金として払ったものを還流させるなどということをしなくても良かったわけですから。研究者はもういちど研究費の正しい使い方を確認する必要がありますね。

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以下追記。
文部科学省のページでちょっと調べてみたところによると、『研究計画の変更は?』 (pdf)では、

各費目(物品費、旅費、謝金等、その他)のそれぞれについて、直接経費の「総額の30%」(この額が300万円に満たない場合は、300万円)の範囲内で、自由に変更できます。

だそうで。今回の問題がおきていた1998年から2001年までの科研費の取り決めから変更されている可能性がありますが、今回のは185万円ですから、あとからでもちゃんと申請すれば当初の目的外使用(旅費)に使えたわけですね。これを研究者が知らなかったのだとしたら、やはりこのあたりに精通した担当者を適切に配置する必要がありそうです。同じ手引きには、「研究者が研究に専念するために」科研費の管理は研究機関が行う、とあります。早稲田の科研費使用がストップしているという話を聞きますが、この管理が適正でなかったから、ということでしょう。しかしこれ、どこまでうまく行っているのでしょうか。実際問題として大きな機関では管理が難しくなりそうですし、やはりもっと小さな単位で管理をするのが良いように思えます。

投稿者 平松正顕 : 13:25 | hiramatsu log

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コメント

匿名なのに、私には誰だか分かる・・・(^_^;)ありがとう。。。

投稿者 グッチ バッグ 人気 : 2012年11月10日 06:08

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