2006年8月25日
惑星の定義の決定
先日惑星の定義の第1案が国際天文学連合(IAU)の総会に提案されたときから、やたらとニュースに登場しているこの問題、ようやく決着しましたね。詳細は国立天文台のページがありますので、ここに結果を明示することはしません。惑星形成理論も研究されていた観山台長のコメントも載っています。昨日はプラハの総会会場からのインターネット中継を見ていました。この映像はこれまでのいくつかの招待講演とともにビデオアーカイブになっていますので、ある意味で歴史的な決定となったそのときをご覧になりたい方はどうぞ。
第1案の感想は、案が公表された16日のエントリに書きました。結果は変わりましたが、僕の言いたいことの趣旨は変わりません。惑星の定義がどうなろうと実際の太陽系は変わりませんし、冥王星に対する科学的興味が消えることもありません。単に呼び方の問題です。どんどん惑星が増えていく、という結果につながる以前の定義案は、天文学の進歩を如実に示していくという意味では、天文学をより身近で魅力的なものに見せてくれるものだと思っていましたが、まぁ客観的に見れば冥王星は明らかに異質ですから、今回の決定は順当なものでしょう。冥王星はかなり小さいですし、冥王星の周囲には冥王星くらいの天体がたくさん見つかっています。この点が、冥王星が惑星の定義を満たさなかった原因です。
7人しかいないIAUの惑星定義委員会に、アジア代表として国立天文台の渡部潤一助教授が入っていることは、もう少し注目されてもいいと思うんですがどうでしょう。アメリカの陰謀説だけはやたらと強調されていますが、天文学だって世界のどっかで進んでいるものではなくて、日本でもしっかりやってるんですから。
あとは、報道を見るとこの惑星の定義を決めるためだけに世界中の天文学者がプラハに2週間集っているようにも読めますが、先日の日誌に書いたようにそんなわけではありません。どちらかといえばその他のたくさんの研究会がメインで、総会はおまけみたいなもんだという印象です。天文業界も惑星の定義の話題で持ちきりというわけではありません。もちろん雑談の話題に上ることはあるでしょうが、この1週間も様々な分野の研究がゆっくりと進んでいます。
今回の決定を受けてのニュースでは「冥王星降格」にだけ焦点が当たっていますが、先日の惑星を増やす方向での定義案ではどうだったのでしょう。このとき僕はプラハにいたのでテレビを見ることができず、反響の大きさが今ひとつわかっていません。一般の方は「太陽系は9惑星だけじゃなかったんだ、太陽系ってもっと広いんだ」という点をどれだけ認識することができたのでしょう。多くの方は海王星の向こうにたくさんの小天体があることは知らなかったと思うのですが、今回の騒動で皆さんの認識の中の太陽系が大きく広がっていればそれは大きな前進だと思います。一方で「教科書/教育現場に混乱を招く」という捉え方に終始している感がある報道では、その「宇宙の広がり」は感じられないかもしれません。すべてを報道に期待することは無理なことですから、今回の興味の盛り上がりをしっかりと捉えて現代宇宙の認識をたくさんの方と共有していきたいものです。
今回の報道加熱を受けて、とてもたくさんのブログにこの話題が載っています。いろんな方の感想が読めるのが面白いですね。たとえば Livedoor のブログ検索で「冥王星」を検索すると4000件くらいヒットします。そのなかで、「天文学者って暇だね、もっと大事なことあるでしょう。」という感想がちらほら見受けられます。このことにはどう対応すればいいのでしょうか。なかなか難しいですが、まずは天文学者が面白いと思っている宇宙の姿を説いてみる事から始めるのが良いのでしょう。もちろん天文学のほかにも重要なことはたくさんあるのですが、今回の惑星の定義の問題、特に冥王星の処遇や「水金地火木土天海冥が変わる!」といった表面的な点にしか注目していない報道からだけでは天文学の本当の姿は伝わってきません。そこから想像される天文学と実際の天文学は明らかに違うものです。天文学の価値を認めてもらうとか言う前に、本当の天文学を知ってもらう必要がありそうです。さらに天文学にとどまらず、科学は常に動いているものだという認識も持っていただきたいものですね。教科書のままいつまでも止まっている学問なんて面白くありません。
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国際天文学連合のプラハ会議で冥王星が惑星から除外された。マスコミは大騒ぎである。
薄唇短舌 : 2006年8月25日 20:29
コメント
カッコいい!興味をそそりますね(^m^)
投稿者 グッチ バッグ メンズ : 2012年11月10日 04:44