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2008年12月8日

ALMA-JT 5

先週金曜日と日曜日、僕が普段研究生活を送っている国立清華大学でThe 5th ALMA Japan-Taiwan science workshopが開催されました。「東アジア地区」としてALMAを一緒に進めていく日本と台湾の研究者が、ALMAに向けた天文学研究について議論する場です。

ALMAも他の多くの望遠鏡と同じく、研究者が観測提案を出し、審査に通った提案が実際に観測に移されます。「こういう観測をするとこういうことがわかるから、望遠鏡を使わせてください!」とお願いをするわけですが、望遠鏡が使える時間は有限だしアメリカやヨーロッパにも強力なライバルがたくさんいるので、観測時間をゲットしていい成果を出すのは簡単ではありません。建設/運用に各地域が拠出した資金や物資によって観測時間割り当てが決まるので、東アジア地区はおおざっぱに言って全体の1/4くらいの時間は確保されているはずです。が、面白い観測を先に他の人にやられてしまったら時間だけもらっても仕方がないので、研究者はみんな頭をひねってどんな観測をしようか考えているわけです。

もうALMAの建設は始まってるのに今頃どう使うか考えるの?とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。ALMAの計画が始まったころから、「この謎やあの疑問を解くには、どんなスペックの望遠鏡が必要だろうか」という議論が重ねられてきました。天文学の進展に合わせて解くべき謎も変わってくるので、その時々の状況に合わせさらに先を見据えて、最終的なスペックが決められたわけです。そして今、その決まったスペックをもとにして、具体的に「この謎を解くためには、この種の天体のこの部分を観測する必要がある。じゃあALMAのどの観測周波数で、どの天体を、どういうふうに観測するのか。そのためには何時間必要か。」をみんな考えているわけです。面白い観測でもとんでもなく観測時間が必要なものは実現しにくい可能性が高いので、実現可能な時間数かどうか、というのも大事な観点です。また、スピッツァー宇宙望遠鏡による新種の天体の発見やシミュレーション天文学による新しい仮説の提案など、ALMAの検討が始まったころには予期できなかった事柄もたくさんあります。理論を専門とする人もこれまで電波観測をしたことなかった研究者もそれぞれアイディアを出して具体的な観測提案を準備する、ALMAは今そういうフェイズにあります。

今回の研究会では、ALMAの将来的な開発プランについても議論が行われました。まだ出来上がってないのにそれをどう増強するか議論する、というのもなかなか難しいものですが、開発には時間がかかるのでそれも仕方ありません。ALMA計画自体、日本の電波天文学者が議論し始めたのは1980年ごろに野辺山宇宙電波観測所が完成した前後だと聞いています。実に30年。ALMA将来プランでは2030年ごろに実現したい項目がいくつか挙げられていました。2030年って僕は50歳ですよ。いやーそんな先のこといわれても、という感じですが、ちょっとずつ考えていかないといけないのです。

投稿者 平松正顕 : 01:02 | 研究生活@台湾

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コメント

こんにちは!
観測提案のご苦労は、林先生からも伺っていましたが、競争に打ち勝たなければALMAでも研究ができないんですね。頑張ってください!
大プロジェクトは、長期間の計画・準備期間を経て実現されるんですね。
でも、日本でもALMAのような大規模な計画を推進したり、K2Kやすばる望遠鏡、SK,核融合研究所などがあることがすごいです。

ニュートンで、佐藤勝彦先生が監修された宇宙論の特集をずっと読んでいるんですが、宇宙の大きさについて、とんでもないことになっていますね。
人間が観測可能なのは、ビッグバンの38万年後の光から始まって、ごくごく一部分だけで、インフレーションで膨張した宇宙は予測不可能な程広大だとありました。
もちろん、たくさんの他の宇宙の予測もありました。

東北大学に伺ったとき、H先生から重力波検出装置を自作されたと見せていただきました。
他の宇宙からの重力波も検出するよう開発を進めているんでしょうか?

平松先生も、宇宙は私たちの考えも及ばないほど広大で、その先には、他の宇宙がたくさんあると考えていらっしゃいますか?

投稿者 sopuranovoce : 2008年12月8日 11:07

コメントありがとうございます。
野辺山もすばるも海外の天文台も素晴らしい成果を出していますが、その陰には実現に10年以上かけている天文学者の苦労があります。装置が大きくなればなるほど大変な仕事になりますから、ALMAの次についての議論も早めに始めておかないといけないのです。

宇宙の先、というのは一家に一枚宇宙図を作製するにあたっていろいろ考えたり議論したりしました。宇宙とは何か、という問題ですね。原理的に観測できない他の宇宙を宇宙と呼ぶのでいいのかとか。確かに宇宙は広大ですが、「考えも及ばないほど」とは思いません。現にそれを考えている天文学者もいるわけですしね。

投稿者 平松正顕 : 2008年12月12日 23:16

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