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2009年4月28日

観測史上最遠の天体、更新

これまで人類が観測した史上最遠の天体は、すばる望遠鏡で2006年に発見されたIOK-1と呼ばれる銀河でした。口径8mの鏡で得られる大きな集光力と広範囲の空を撮影することのできるカメラSuprimeCamの組み合わせがこの銀河の発見には大きな役割を果たしました(その時のプレスリリース)。天文学では遠くを見ることは昔を見ることなので、この銀河の場合、約128億8千万年前にこの銀河から発せられた光が、2006年に観測された、ということになります。宇宙誕生(ビッグバン)は約137億年前と考えられてるので、ビッグバンの約8億年後の姿です。この記録は2年以上破られずにきたわけですが、ついにこの記録が更新されるときが来ました。

4月23日に発生したガンマ線バーストGRB 090423がその天体です。ガンマ線バーストというのは極めて重い星が一生の最後に起こす爆発と考えられているようです。超新星爆発をもっとスケールアップしたもの、という感じでしょうか。同じ距離にある銀河よりは断然明るく輝くので、ガンマ線バーストの方が遠く(昔)に出現してもその光が届くわけですね。チリにあるヨーロッパの望遠鏡VLTの観測の結果、今回の爆発は約130億年前に起きたもので、その光がようやく今地球に届いたものであることがわかったそうです。

このように非常に遠方の天体の距離を測るには、その天体から来る光を波長方向に細かく分けて(分光)観測します。観測対象が銀河の場合、まあ人間の時間スケールならいつ観測してもほぼ同じ明るさだと思うのですがガンマ線バーストは爆発現象なので、すぐに暗くなってしまいます。最近は飛来するガンマ線を人工衛星で最初に検出して、世界中の天文台に瞬時に情報を回して追加観測してもらう、という手法が確立しつつあります。今回のGRBもスイフトという衛星が最初に爆発を観測し、のちに地上望遠鏡が爆発の残光を観測して距離などの精密な測定をした、というわけです。

この追加観測は、情報共有が命です。様々な天文台が各自備え付けてある装置で観測するわけですが、空のどこで爆発が起きたのか、どれくらいの明るさなのか、他にどんな観測が行われたのか、というのをしっかり押さえておかないといけません。逐一更新されていく情報の共有に、最近ではブログが使われているみたいです。その名もGRBlog。毎日のように出現するガンマ線バーストに対する観測結果が掲載されてますが、今回のGRBについてはこちら。カナリア諸島、チリ、国立天文台岡山、アリゾナの光学望遠鏡、スイフトやフェルミといった宇宙望遠鏡、いくつかの電波望遠鏡までさまざまな望遠鏡がこの天体を観測していることがわかります。天文学というと悠久の時の流れに身を任せてゆったりと観測、というイメージがあるかもしれませんが、こういう突発天体の場合は世界中で競争と協力が並行する形で研究が進んでいくわけです。GRBlogではそれが全世界に公開されながら進んでて、先日の世界の天文台からリレー生中継とはまた違った意味でライブな研究の現場が垣間見えた、今回の記録更新でした。

投稿者 平松正顕 : 22:46 | hiramatsu log

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コメント

お世話になります。とても良い記事ですね。

投稿者 グッチ サングラス : 2012年11月10日 07:58

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