2009年9月10日
ハッブル再起動
スペースシャトルによるカメラ交換・修理を5月に終えたハッブル宇宙望遠鏡、その後3カ月余りの調整期間を経てついに新生ハッブルによる画像がリリースされました。美しい惑星状星雲、銀河、星形成領域などの画像が大量にリリースされていて、今後の大活躍を期待させてくれます。
たとえば、右に挙げた星雲の画像(元画像+解説はこちら)。今回のサービスミッションで新たに搭載された広視野カメラ3(WFC3)は紫外線、可視光、赤外線の撮影をひとつのカメラで行うことができます。これら波長の違う光で観測することによって天体の異なった姿が見えますよ、というのがよくわかるのがこの星雲の写真です。上は可視光、下は赤外線で撮影された画像で、りゅうこつ座にある星形成領域がとらえられています。上の写真の中央には、ガスとダストが集まった分子雲がまわりの星の光に照らされている姿が映っています。一方赤外線写真である下側では、この分子雲がほとんど見えません。赤外線はガスやダストに吸収・散乱されにくいので、この雲を見通すことができるわけです。この雲の中央には一つ明るい天体があって、そこから左右に直線状に光がのびています。この光の筋は、中央の極めて若い星がその誕生過程で放出しているジェットです。秒速400kmにもなるこのジェットは誕生しつつある星の母体となった分子雲を突き抜け、その長さは15光年にも達しています(上の画像の左側にもやもやと見えるもの)。星は一般にこの写真に見えているようなガスやダストが集まってできるものですから、生まれたばかりの星というのは必然的にガスやダストに深く埋もれています。こういう場所を観測するには、それらの星間物質に邪魔されずに中を見ることができる赤外線や電波が適しています。僕が研究しているのはまさにこういう場所で、星が生まれてそこから出てくるジェットが周囲のガスやダストにどんな影響を与えているのか、というのがひとつの研究テーマであります。よりパワフルになったハッブルで、さらにいろんな謎が明らかになっていくことでしょうね。
ハッブル宇宙望遠鏡は打ち上げからもう19年も経つそうです。望遠鏡本体は変わらないものの、スペースシャトルによるサービスミッションの度にカメラが交換・修理され、そのたびごとに新しい望遠鏡として生まれ変わっています。予定ではスペースシャトルは来年には退役することになっていますので、もうハッブル宇宙望遠鏡に人間が行くことはないのでしょう。今年新しくなったカメラが素晴らしい写真と研究成果をもたらし、これからも人類の宇宙観構築に大活躍してくれることを期待します。
[画像提供:NASA/STScI]
投稿者 平松正顕 : 02:10 | hiramatsu log
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コメント
生まれたばかりの星のジェットは、秒速400km・・
すごいエネルギーですね。
こんな風に、Carina Nebulaの星形成領域を詳しく教えてくださって、感謝しています。
ハッブルのカメラが交換されて、本当に良かったですね!
投稿者 sopuranovoce : 2009年9月17日 22:21
突然訪問します失礼しました。あなたのブログはとてもすばらしいです、本当に感心しました!
投稿者 グッチ 公式サイト : 2012年11月10日 06:13