2010年12月23日
ALMAを超えるALMA
宇宙をテーマにした音楽というのはそんなに珍しくないですが、望遠鏡そのものずばりの名前を冠した曲はそんなになかったのではないでしょうか。そんなところに、今年9月に『ALMA』という曲をリリースしたACIDMANはすごい。
もう何度もこのブログで紹介していますが、ALMAというのは日本と台湾、北米・欧州の国際協力でチリに建設中の電波望遠鏡です。僕もこの8月から10月まで2ヶ月間望遠鏡の調整のために出張してきました。
で、その出張中、ALMAのコントロールルームにいるときに、現地に赴任されている日本人研究者の方と話をしていていびっくり。「ALMAというタイトルのCDを出すアーティストがいる」と。公開されたCDジャケットには確かにALMAの日本製造担当分のパラボラアンテナがしっかりと写っています。何でも実際ALMAサイトまでやってきてプロモーションビデオを撮っていったとか。発売は9月で、その前後にはテレビにもたくさん出て、番組によってはそのPVのロケ風景なんかも紹介されていたようです。僕も台湾に戻って来てから、NHKワールドプレミアムで一度その放送を見ました。ずらりと並んだALMAのパラボラアンテナの写真が音楽番組に出てるのはとても不思議な感じ。
プロモーションビデオは、EMIのページで見ることができます。冒頭からALMAのアンテナ(三菱電機製)が登場。白い平原はボリビアのウユニ塩湖だそうでこれはALMAの建設エリアとは別の場所ですが、それ以外の部分ではALMAのアンテナが随所に出てきます。パラボラが1台だけ動いているシーンは、標高3000mのOperation Support Facilityと呼ばれるALMAの施設の中の日本のアンテナ組み立てエリアでの撮影のようです。ヨーロッパアンテナ組み立てエリアの写真は9月23日の記事に載せてありますが、日本のエリアはこの写真のすぐ右側です。さらにPVの2分43秒以降には、標高5000mに設置された7台のパラボラアンテナも出てきます。砂埃が待っているのでわかるとおり、このサイトでは強風が吹くことが時々あります。アンテナを倒して低い姿勢にしてるのは、たぶん強風からアンテナを守るためのサバイバルモード。撮影もきっと大変だったことでしょうね。
この曲のタイトルは、EMIのウェブサイトでは次のように紹介されています。
楽曲タイトルの「ALMA」(アルマ)とは、東アジア(日本が主導)・北米・ヨーロッパ・チリの諸国が協力して、チリ北部のアンデス山中標高約5000メートルにあるアタカマ高地に建設中のパラボラアンテナ66台からなる電波望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計:Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)の略称で、チリの公用語であるスペイン語で「こころ」「たましい」を意味します (国立天文台 ALMA望遠鏡 ホームページ参照 http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/)。
「ALMA」のミュージック・クリップは、Vo.&G.オオキノブオが、実際にチリ・アタカマ高地に行き、国立天文台の全面協力を受け、ALMA望遠鏡のもとで撮影を敢行しました。また、ボリビアにある塩の湖・ウユニ塩湖でもロケを行い、楽曲の世界観を見事に表現した壮大で美しい作品が完成しました!!
音楽系のウェブニュースサイトの記事もこの文章をもとにして書かれているようで(例えば、CDJournalの記事)、『ALMA電波望遠鏡』という文字列が相当多くの方の目に触れたんではないかと思います。さらに、シングルCDのみならずアルバムのタイトルも"ALMA"、ツアータイトルも"ALMA"、さらにPVの撮影風景を収めたDVDのタイトルも『scene of “ALMA”〜オオキノブオ チリ&ボリビア紀行〜』。もうALMAだらけ。
僕の友人からは「国立天文台からプロモーションかけたのか?」という質問のメールが来たりしましたが、話によれば(僕は国立天文台の人間ではないので・・・)、むしろACIDMANの側から興味を持ってアプローチしてきたとか。きれいな写真が撮れる光学望遠鏡ではなく電波望遠鏡、しかもまだ建設中のALMAに興味を持ってもらえたのはとてもラッキーで嬉しいことです。
不況や財政難もあって科学の意義や役割が問われることの多い昨今、直接明日の生活を物質的に豊かにするような科学や技術はもちろん大事なんですが、インスパイアされて曲が作られてそれが多くの人に聞かれるとか、そういう方向での科学の果実の還元ももっとあっていいよなと思う、今回のACIDMANの新曲でした。
投稿者 平松正顕 : 22:37 | hiramatsu log | コメント (12) | トラックバック (0) |