2007年5月18日

one observation night

19:30 @観測ドーム

スコールのような雨も 15 時過ぎにはあがり、今はすばらしい快晴。
雨が空気中のごみを落としてくれたようで、透明度もよさそう。

薄明の空に金星が、高く明るく輝いている。
まさに宵の明星。
これから 6 月にかけては、水星も加わってない惑星シーズンだ。

この天気に観測しない手はない。
観測準備開始。

眼視観望装置 “わんだーあい” をはずし、冷却 CCD カメラを取り付ける。
望遠鏡もふた、スリットをあけ、望遠鏡がまだ薄明の残る空に向いた。

あれだけやかましかった鳥たちの声も消えて、
あたりは静まり返っている。

CCD カメラの冷却、開始。

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19:44 @観測ドーム

気温 20 ℃、湿度 71 %。
観測しやすい季節になったものだ。
湿度が高いのが若干気になるが、望遠鏡を目標に向ける。

今日も目標は惑星を持つ星。
自分の中でのコードネームは Star_T。
やまねこ座にあるこの星は 23 時前には沈む。
惑星を持つのはほぼ確実だが、トランジットを起こすかどうかはわからない。
トランジットの予報時刻は 23 時 32 分。
目標は確実に沈んでいる。
しかし、この予報は精度がそれほど良くない。
数時間ずれていることもままある。
前にずれていてくれれば、と願うばかり。

目標を導入し、フォーカスをセット。
あとは薄明終了まで待つばかり。

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20:17 @観測ドーム

薄明終了前だが撮像開始。
積分時間を 240 秒と長くしたため 30 枚撮れればいい方であろう。
あまり時間はない。
連続撮像を開始して、いったん、研究室へ。

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21:11 @広報普及室

StellaNavigator で確認すると、
21 時半の段階で Star_T の高度が 20 度近いことが判明。
あまり意味のあるデータにはならないかもしれないと思いつつ、
ドームへ移動。

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21:32 @観測ドーム

途中、懐中電灯を持った守衛さんとすれ違う。
ライトの光跡がチンダル現象で長く伸びていた。
思った以上に湿度は高いようだ。

ドームで湿度を確認すると、78 %。
もしかしたら、ドームを閉めなければいけなくなるかもしれない。

そして、Star_T はやはり高度が限界に達する。
20 枚撮像したところで打ち切り。
19 枚目には写野の隅にまっすぐな光跡が。
人工衛星かもしれない。

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21:50 @観測ドーム

ターゲットを Star_R に変更。
こちらは 23 時 48 分にトランジットの終了予報。
良好な比較星が得られる数少ない天体のひとつだ。
おとめ座にあるため、もともとの高度が低いが、 しばらくは沈まない。
今夜の観測はこの天体をぎりぎりまで追って終了かな。

木星が昇ってきた。
低いせいか、かなり赤っぽく鈍い光を放っている。
隣には火星の敵、アンタレス。
水蒸気に負けて、一等星とは言えないくらい情けない輝きだ。
火星の敵にはなり得ても、木星にはまったく敵わない。

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23:55 @観測ドーム

天文台は静まり返っている。
ドーム内で聞こえるのは、
望遠鏡の筒内の気流を安定させるために回っているファンの音、
そして、時折望遠鏡の追尾にあわせてドームが回転する音。
あとは、限りなく静か。

もう少しで日付が変わろうとしている。
しかし、観測屋さんにとっては1日30時間。
翌朝6時までが 1 日となる。
まだまだ 1 日は終わらない。

岡山天体物理観測所元副所長の石田五郎さんの著書『天文台日記』で、
石田さんは「観測者はそれぞれ、自分の星を持っている。それと対話している。」というようなことを書かれていた。

それに当てはめれば、僕にとっての自分の星は 20 個ちょっと。
それぞれ記号が名前としてついているが、
トランジット予報の情報は機密扱いのため、普段はコードネームで呼んでいる。
見た目は何の変哲もない普通の星。
観測をしていても、計算機のディスプレイに移るのは、ただの白い光点。
しかし、その周りを惑星が回っている。
自分が観測している間、その惑星が前を横切っているかもしれない。
もしかしたら、生命が…。

ただの白い光点から惑星を見つけ出すのが自分の仕事。
観測が終われば、またひたすら計算機の前で、惑星探しを続けることになる。

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24:40 @広報普及室

次の連続撮影 20 枚をセットして、合間に夜食。
お湯を沸かして、インスタントの味噌汁と、レトルトのおかゆ。
今日は自転車がないため、買いに行くのも億劫なのであり合わせで。
真冬ではないが、やはり暖かいものは落ち着く。

今日は、こんな時刻なのにまだW先生がいる。

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26:01 @観測ドーム

頭上には早々と夏の大三角が昇りつつある。
その三角形を横切るように天の川が流れているはずだが、三鷹の空ではほぼ見るのは不可能。
天文台ができた頃は見えてたというが・・・。

そして地上は・・・
暗くてよくわからないながらも、おそらく霧が出てきている。
そろそろ限界か。
幸い、Star_R は限界高度まで追うことができた。

ドームをしめ、感度ムラ補正のためのフラット撮影。
そして、ノイズ除去のためのダーク撮影。
ダークは目標の積分時間と同じだけ時間がかかるため、
まだ眠れない。

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25:45 @広報普及室

観測終了。
空が白んできた。
でも、まだ鳥たちは鳴き出していない。

湿度は 85 %まで上がり、やはり霧が出ていた。

夏は観測時間が短いため、体力的には楽だが、当然、集められるデータは少ない。
トランジットの全過程を捉えられないこともしばしば。

さてさて、それではおやすみなさい。

投稿者 KEN : 04:30 | 2007年度以前の記事

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