2008年9月17日

Look Straight?

カナダ、トロント大学のチームが、
ハワイにあるジェミニ北望遠鏡を用いた観測で、
系外惑星の直接撮像に成功したかもしれない、
というニュースを発表しました。
一部新聞でも報道されたので、ご存知の方もいるでしょう。
 #一部新聞には報道に問題を感じましたが…、その話はまた後日。
 #でも、思ってたよりもとりあげた新聞社、少なかったですね。

撮像されたのは、さそり座の方向、
地球から約 500 光年かなたにある若い恒星 1RXS J160929.1-210524。
恒星のスペクトル型は K7 型で、太陽よりも低温低質量の星です。
見積もられた恒星質量は太陽の約 85 %、
表面温度は 4060+300-200 ℃ だそうです。

惑星と見られる天体(ジェミニ天文台のサイトでは Companion と呼んでいます)は、
質量が木星の約 8 倍と見積もられており、そのとおりであれば、たしかに惑星と呼べる質量ではあります(※ 1)。
しかし、この質量、天体の光度から大気モデルを当てはめて質量を計算するという方法で求められています。
今回は褐色矮星の大気モデルを用いて計算されているそうですが、これには大きな不定性があります。
パラメータ如何によっては、桁で質量が変わってしまうことがありえます。
今回の、木星の 8 倍というのは最小質量ですから、
たしかにこのままであれば惑星ですが、さらに大きくなってしまう可能性はじゅうぶんにあります。

つづいて問題なのは、恒星とその Companion までの距離です。
見かけの距離で恒星から Companion までは 1 秒角以上も離れています(図 1)。
となると、恒星から Companipn までの実距離は、太陽から地球までの距離の約 330 倍にもなるのです。
これは惑星と呼ぶには遠すぎます。
太陽系でもっとも外側を回る海王星でさえ、太陽から地球までの距離の約 30 倍です。
その 10 倍以上も離れていることになります。

では、なぜ恒星から遠すぎると惑星と呼べないのでしょうか?
これは、惑星の“でき方”を考えるとわかります。

惑星は、恒星が誕生する際に、その周囲につくられる原始惑星系円盤から誕生すると考えられています。
その流れは図 2 を見てほしいのですが(わからなかったらコメントください)、
要は、惑星は恒星の周囲に形成された原始惑星系円盤からつくられる、というところがポイントです。
こちらにも詳しく書いてあります。)

太陽から地球までの距離の 330 倍の距離に惑星を作るためには、
それだけ大きな原始惑星系円盤が必要になります。
ところが、今回観測された恒星は、質量が太陽よりも小さいのです。
太陽系の場合、原始惑星系円盤の質量は、太陽質量の約 1 %だと考えられています。
ということは、恒星の質量が小さいのに、円盤の大きさ・質量が太陽よりも大きい、
というのは考えにくいのです。

では、惑星自体はもっと内側で作られたけど、何らかの原因で外側に運ばれた可能性はないのでしょうか?
たしかに、太陽系においても、海王星はそのように移動して現在の位置に落ち着いた、という説があります。
とはいえ、恒星の重力を振り切って、そんな遠方にまで移動できるでしょうか?
また、惑星を外側に移動させるためには、もうひとつ、内側に惑星が必要になります(※ 2)。
外側の惑星がさらに外へと移動する分、内側の惑星はさらに内へと移動します。
ということは、その移動量にも限界があるのです。
内側の惑星が恒星に落ち込んでいってしまったら、それ以上移動できませんから。

さらに痛いのは、この天体が恒星の周りを本当に回っているのかどうか、確認できていないことです。
最悪、たまたま同じ方に見えているけど、もっと遠くにある別の星、なんてこともありえます。
たしかに、これだけ離れていれば、公転周期は非常に長くなり、
天体の移動を確認するだけでもそれなりの時間がかかります。
単純に、軌道長半径が 地球の 330 倍と仮定し計算すると、公転周期は約 5995 年。
天体がある天体の周囲を回っている、ということを証明するためには、少なくても 3 回観測をして、
動いていることを確認して、軌道を求めなければなりません。
ちょっと時間がかかりそうです。


というわけで、僕個人の考えとしては、今回見つかった Conmpanion は、
惑星であってほしいとは切に思いますが、残念ながら惑星ではないと思っています。

では、いったいなんなのでしょうか?

ジェミニ天文台の web ページにも書いてありますが、2 つの可能性があると思います。

1 つめは、褐色矮星。
簡単にいってしまえば、連星系のなりそこないです。
恒星と同様、星間ガスが集まってできたのですが、質量が足りず、中心で熱核融合ができなかった。
いずれ、輝きを失い、消えていくでしょう(※ 3)。

2 つめは、浮遊惑星(free-floating)。
これは、惑星状天体なのですが、その名のとおり、宇宙を浮遊している、
なにかの周囲を公転していない天体です。
現在の系外惑星(広く言ってしまえば惑星)の定義では、
惑星は恒星か、元・恒星(※ 4)の周りを回っている必要があります。
つまり、浮遊惑星は、惑星とは呼べないのです。

考えられるのは、この 2 つのうちどちらか、だと思いますが、
浮遊惑星が偶然写り込む、というのは考えにくいので、
結局のところ、褐色矮星に落ち着くのではないかと思っています。

なんだか夢がなくなってしまいましたが、
それでも、系外惑星の直接撮像・直接観測は人類の夢です。
その夢に向かって、様々な観測装置の開発が行われています(※ 5)ので、きっと、近い将来、
間違いなく系外惑星! という天体が直接捉えられると信じています。
皆さんも、楽しみにしていてください。


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※1:
系外惑星には明確な定義はありませんが、
木星質量の十数倍以下を惑星、それ以上 〜 80 倍程度以下を褐色矮星と呼ぶことにしています。
これは重水素による熱核融合を起こせるか否か、を惑星と褐色矮星の境界線にしているのですが、
そもそも惑星と褐色矮星では形成過程が異なるため、上記の点で分けるべきではないという意見もあります。

※2:
海王星の移動は、タイプUの惑星移動(migration)であると考えられています。
タイプUの migration とは、
角運動量(簡単に言えば、回転する力)の渡し合いによって、
内側の惑星はより内側へ、外側の惑星はより外側へ移動していくことをいいます。

※3:
褐色矮星は、自分自身の重さでつぶれようとするエネルギー(重力エネルギー)を解放することによって輝いています。
核融合のように持続的にエネルギーを供給できないため、いずれは冷えて光を出さなくなります。

※4:
恒星が死を迎えたあとの姿、たとえば、白色矮星や中性子星などがあります。
実際に、中性子星には惑星が発見されています。

※5:
日本では、中心の恒星の光を隠して(簡単に言えば、人工的に皆既日食を起こして)、
その光に埋もれている惑星の姿を捉えてやろうと、Hi-CIAO という装置を開発中です。

投稿者 KEN : 21:30 | 天文学最前線

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