[title] 「天文学とプラネタリウム」実践編 "How to bring Astronomy closer to the public with Planetarium?" 高梨 直紘、平松 正顕(東大・理・天文) Naohiro Takanashi, Masaaki Hiramatsu (Dept. of Astronomy, Grad. School of Science, University of Tokyo) [abstract] 本稿では、学生の始めた天文普及プロジェクト「天文学とプラネタリウム(略称天プラ)」の取り組みを紹介します。天プラとはなにか、これまでにどのような活動を行い、これからどのような活動を目指すのか。こういった事に関して簡単に触れたいと思います。詳細は最後のURLを参照して下さい。興味を持った方はtakanashi-tenpla@ioa.s.u-tokyo.ac.jpまでお問い合わせ下さい。 1.天プラとはなにか 天文学は一般の諸科学に比べると、大変普及している学問の1つであると思います。星座の話から最前線の天文学まで、様々な機会を通じて一般市民に提供されています。このような普及活動に関心のある学生は少なくありません。しかし、残念なことに、学生が気軽に普及活動に参加できる機会が豊富に用意されているわけではありません。学生を初め、様々な専門性を持った人がお互いの長所を活かした普及活動を始められる機会を提供できないか。このように考え、始めたのが“天プラ”という活動です。 我々の目標を簡単に示すと、次のようになります。 a.様々な専門性を持った人に交流の場を提供し(ネットワーク作り)、 b.どのような協力が可能かを探り(企画を考え)、 c.具体的な活動へ昇華し(実行し)、 d.天文学普及の新たなチャンネルを開拓する(楽しむ)。 現在は、aからcの段階にあります。ネットワークとしてメーリングリストを立ち上げ、90名ほどの学生や科学館関係者の方々が参加なさっています。今回の発表では、主にそのネットワークを通じてどのような企画が考えられ、実行された(あるいはされようとしているのか)について紹介したいと思います。 2.これまでの波及例紹介 (1)相模原市立博物館の例 メーリングリストメンバーのプラネ関係者の紹介で、同じくメンバーである宇宙研(現JAXA)の博士課程の学生が相模原市立博物館との協力で「子ども天文教室」を開催しました。内容の詳細については、天プラ有志の発行している「テンプラネット」を参照下さい。相模原市立博物館は相模原のJAXA宇宙科学研究本部の目の前にあるのですが、地理的に近いからといって必ずしも強いコネクションがあるわけではないことに思い当たる方も多いのではないでしょうか。天プラのメーリングリストを通じてこそ実現できた良い例だと考えています。 ###01.jpg (caption) 相模原市立科学館の天文教室で講師を勤める学生。このような経験は、学生にとっても有用な勉強の機会となる。 (2)明石市立天文科学館の例 メーリングリストメンバー数名で明石市立天文科学館を訪れたのがきっかけとなり、館の友の会の集会にて簡単なミニ座談会が行われました。学生側からは、京都大学で宇宙物理を専攻する3名の修士課程の学生が参加し、簡単な研究紹介および質疑応答といった内容が行われたようです。学生側からは「初めての経験であったがとても楽しかった」との反応も得られ、今夏にも第2弾として「天文進路相談室」が行われるそうです。この明石での例は学生側でも広く知られ、付近の学生の多くが興味を示すという良いフィードバックがかかりつつあります。 (3)葛飾区郷土と天文の博物館の例 子どもを対象とした「かつしか天文教室」に、東京大学の修士課程の学生がゲスト参加しました。この日の天文教室はすばる望遠鏡の話題がテーマで、学生は自身の体験したすばる望遠鏡での観測の様子について紹介しました。学生の中には国内に限らず国外での観測経験を持つ者も数多くいます。この事例は館の強み(幅広い情報)と学生の強み(深い情報)が活かされた例であると思います。 ###02.jpg (caption) かつしか天文教室ですばる望遠鏡の観測体験をしゃべる著者。プロポーザルの仕組みやハワイの“美味しい”食事の話など、ひと味違った話を切り口にすばるを紹介した。 3.解決されるべき点 現在、我々がこのような協力を進める上で問題であると認識している点について挙げておきましょう。 [直接には頼みにくい] これまでの事例は、紹介者を通すか、あるいは直接の顔見知りである学生と科学館の間で成り立っています。従って、学生とそのようなコネクションが存在しない館にとっては敷居の高いものではないかと考えています。今後、よりお互いの顔が直接見えるような場を作りたいと考えています。 [協力方法がはっきりしない] 学生と協力するとしてもどのような段取りを経て、実際の事例に至るのかという点に関しては今のところ、完全に当事者同士のやりとりに任されています。従って、どの程度の労力、あるいは予算が必要なのかといった目安がなく、不安があるのも否めません。ほどほどの目安となるガイドラインを作成したいと考えています。 4.これからの展望 [天プラの仕組みを再検討します] 現在、我々はメーリングリストを核に活動していますが、メンバーが巨大化するにつれ新たな協力事例が生まれやすい環境とは言いにくくなってきました。現在、より気軽に、大きな成果の得られる仕組みの構築を目指しています。 [新たなタイプの協力事業を展開します] これまでは主に人をその場に呼んできてなにかする、といった形式の協力事業が中心でしたが、今後は様々なタイプの協力事業を、例えば天文グッズ(教材、ゲーム)の開発および頒布などを試してみたいと考えています。詳しくはWEBを参照して下さい。 ###03.gif (caption) 身近な天文グッズの一例、名付けて“Astronomical Toilet Paper(A.T.P.)”。なんとトイレで宇宙の秘密に触れることが出来る(予定)。 [新たな地域にも拡大します] 天プラメーリングリストに参加している学生の多くは、現在のところ関東圏および関西圏に集中しています。しかし、実際にはメーリングリストに参加していなくとも様々な地域にこのような活動に興味を持った学生が存在しています。ぱっと顔が浮かぶところでは、北大、東北大、新潟大、東大、学芸大、千葉大、立教大、近畿大、名古屋大、京都大、金沢大、大教大、和歌山大、九大、琉球大などなど・・・まだまだ私の知らない学生さんも数多くいるでしょう。彼らからは、“えっ、地元にそんな科学館があったなんて!”とか、“子どもの頃から通っていたんだけど、なかなか声がかけられなくて”なんて声が聞こえてきます。あなたのプラネでも、地域の学生に目を向けてみませんか? ###04.png (caption) 天プラメーリングリストに加入しているメンバーの地域分布図。この地図上では空白でも、実際には多くの学生が活動しています。 参考アドレス [天プラWEB] http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/~takanashi/tenpla/