これらは2003年度に行われた天文・天体物理若手の会第33回夏の学校で配布したアンケートの結果およびコメントです。
 有効回収数は73、アンケートの配布場所は「天文学とプラネタリウム」ポスター前および特別セッション「天文学と社会」講演会の入り口です。回答者は天文学(あるいはその関連分野)を専攻する修士・博士課程の学生で、配ったアンケートの設問は以下の通りです。
  A.広報普及について
1)天文学の広報普及活動に興味はありますか?(とてもある、ある、そんなにない、全くない)
2)あなたがなにか広報普及活動に携わっていましたら教えてください。
  B.プラネタリウムにおける広報普及活動について
1)プラネタリウムから協力を申し込まれたら承諾しますか?(積極的に受ける、受ける、受けない、絶対受けない)
2)その場合、謝礼は必要ですか?(必要ない、あるなら欲しい、必ず欲しい)
  C.プラネタリウムについて
1)ここ3年間でプラネタリウムに何回くらい行きましたか?(0、1-3、4-6、7-9、10回以上)
2)その中で印象に残ったプラネタリウムがあればその名前を教えてください。
3)そのときの投影について印象を教えてください。
4)プラネタリウムに対してどんなイメージを持っていますか?
1.天文学の広報普及活動に興味はありますか?
[コメント]
 全体的に、天文学専攻の院生は天文学の普及活動に前向きである姿勢が見て取れる。アンケート配布場所がポスター前&天社企画講演会入り口であったことを斟酌しても、この傾向は大きく変わることはないだろう。
2.あなたがなにか広報普及活動に携わっていましたら教えてください。
[回答]
・みさと天文台、かわべ天文公園等と和歌山大の連携にともなうことによって生じる諸作業
・他学部や物性の友人から質問されたら、分かる範囲で説明している
・君天やYACとか
・銀河学校のTAをした
・今は特にしていないですが、熊本県民天文台にちょいとお世話になってました。
・観望スタッフ・質問(電話)番・君天
・天文教育普及研究会に時々参加
・学部時代に科学館etcでバイト(天文台、科学実験etc)
・公開セミナー天文学の最前線(名大と名古屋市科学館とが共同で一般から参加者を募って行うセミナー)
・サークル活動として、プラネタリウム主催の一般人向け天体観望会のボランティアをしていた
・君天、キミッション、観望会@三鷹
・“小さな天文学者の会”(遠くから見守りぎみ)
・小学生への講演
・すばるの展示(自治体の祭りとかで)
※注 君天:「君が天文学者になる4日間」、YAC:「日本宇宙少年団」、キミッション:「君が作る宇宙ミッション」
[コメント]
 設問A-1では多くの人間が普及活動に興味を持っていると答えながらも、実際に活動している例を挙げてくれたのはわずか13名にとどまった。これは、動き始めるまでに越えねばならない閾値が大きいことを意味していると思われる。また、活動内容も地域密着型というよりは、研究組織などが主体として行われる活動が多い傾向が見られる。
1.プラネタリウムから協力を申し込まれたら承諾しますか?
[コメント]
 実に9割以上の学生は「受ける」と回答している。設問Aの結果と合わせて考えると、問題は実際に活動を行う機会の不足であると言えるのではないだろうか。このデータを元にして、次はどのような機会が提供されるべきかを考察すべきであろう。
2.その場合、謝礼は必要ですか?
[コメント]
 多くの学生は、「あるなら欲しい」と回答している。しかし、現実問題としてプラネタリウムや科学館などの予算は潤沢になるわけではないので、財源を確保するか、あるいは代替手段を考えるべきではないだろうか。寄付による基金の創設や、あるいは金銭ではなく単位などで支給される可能性などを探れはしないだろうか。
1.ここ3年間でプラネタリウムに何回くらい行きましたか?
[コメント]
 「3年間で0回」と答えた人間がほぼ半数を占めるという結果になった。これは、天文学を専攻する学生にとってはもはやプラネタリウムは魅力的な空間ではないことを明らかにする結果だといえるだろう。このように、プラネタリウムが魅力的な空間ではない、と認識されてしまっていることをプラネタリウムサイドの方は重視して欲しい。プラネタリウムの魅力を学生にもっとアピールする必要があるのではないだろうか。
2.その中で印象に残ったプラネタリウムがあればその名前を教えてください。
[回答]
・京都青少年科学センター
・伊丹
・岡山児童会館
・サンシャインプラネタリウム(3)
・サークルで自分らでつくったモノ
・名古屋市科学館(2)
・五島プラネタリウム(3)
・千葉城
・ラフォーレ琵琶湖
・つくばエキスポセンター
・横浜こども科学館(2)
・多摩六都
・北とぴあ
・日本科学未来館
・千歳の星空コンサート
・愛媛県立総合科学博物館
・メガスター
・岡山鴨方町天文博物館2
[コメント]
 回答数は少ないながらも、いくつかの館の名前が挙げられている。ただし、“印象”に残ったプラネタリウムであるので、“悪い”印象と“良い”印象の両者の意味で挙げられていることに注意されたい(今後のアンケートではきちんと区別してとります・・・)
3.そのときの投影についての印象を教えてください。
[回答]
・おもしろかった(京都青少年科学センター)
・遠足で来た子供達で一杯だった(岡山児童会館)
・天の川は雲みたいに見えるべきだー。でも一般の人にも親切かつ自分にもおもしろくてすごいと思った(サンシャイン)
・きれいだった(名古屋市科学館)
・東京に住んでいてしばらく星を見ていなかった。そのため、プラネタリウムを見たあとどこかに出かけて星を見たいと思った(五島プラネタリウム)
・ギャグを色々かまして客の反応が薄いと急に一瞬明るくして「フラッシュ攻撃!」と言ったり、「夏の大三角はどの星を結んでも大三角になるやん」とか今までのプラネ観が変わる楽しいプラネだった。(ラフォーレ琵琶湖)
・大人も楽しめるかんじ。テクノが流れていた。(つくばエキスポセンター)
・全自動の投影ではなく、解説員によるマニュアルなので、印象に残った。全自動は味がない。(五島&横浜こども科学館)
・子供向きに特化(多摩六都)
・ドーム大きい(北とぴあ)
・時代の歴史を追いながら星を映し出していって、臨場感がありました。(科学未来館)
・おじさんの語り口(サンシャイン)
・アイリッシュミュージックバンドとモンゴルの馬頭琴の奏者が演奏しつつ、星座のお話もあり。(千歳)
・内容がワンパターン。でも中にはおもしろいものも。子供向け。(愛媛)
・きれい(横浜こども科学館)
・忘れました。プログラムはいつも忘れます。(サンシャイン)
・星空と神話の話が楽しかった。
・生の声で解説してくれるやつの方が好きです。
・一個一個の“星”で表現された天の川にびっくりした。
・売り切れ続出でびっくり。大人気でいいなぁ(名古屋市科学館)
・子供向けだなと感じた(岡山鴨方)
・平日はだれもいない。土日は混む。(岡山鴨方)
[コメント]
 「きれい」「おもしろい」など正の評価も見られるが、「こどもむけ」「味がない」などの負の評価も見られた。科学的な話を聞いた、という評価がひとつも見られないのが気にかかる(天文学の学生といえども、自分の専門分野でない話は新鮮である)。
4.プラネタリウムについてどんなイメージを持っていますか?
・就職したい
・子供たちと科学の接点
・子供達が普段あまり目を向けない夜空についていろいろ知ったり興味を抱くきっかけを作る場所
・とてーも良い。もっとたくさんあるべき。
・落ち着ける場所
・神話ばっかりで、学問は少ない話をしている。
・子どもからお年寄りまで楽しめるところ
・夢工場
・子どもをひきつけるもの
・子供向け(遊園地のような)
・夢を与える
・娯楽施設
・夢を与える神秘的な所。でも一度行けば満足(毎回同じという先入観)
・子供の頃から好きだったとこ。普段街中じゃ見られない天の川とか、空いっぱいの星に包まれるすごさを体験できる場所。自分が天文学を志す原点に帰れる感じ。
・小学生のとき行く
・都会で星空を見る手段
・いやされる
・星が見える
・館ごとに違うからね
・みんな寝ている。
・手づくり
・天候を気にすることなく、星座の解説などができるので便利で楽しいです。しかし、光害のないシーイングがいい場所で見た空に比べると、やはりリアルさに欠けてしまうので、技術の向上が今後の課題の1つでしょうか。
・ふとした時、行きたくなる
・夢
・beautiful!fantastic!I like it!!
・星座
・ロマンチック
・ほしがいっぱいだ
・きれいだけど、一度見たら満足かも。やっぱり実際の空にはかなわないので、何らかの付加価値が必要?
・星空を身近に体験できる。
・神話が聞ける。夢がある。
・実物よりわかりやすい星空、デートスポット、小中高生の教育
・子どもの時によく見た。もっと年代が上の人にも積極的に宣伝した方が良いと思う。プラネタリウムがつぶれた話を聞くのが残念。
・中学校の時に行った。
・小中学のころによく行きました。今、この道に進んでいるのもそのころの影響が大です。最近、減っているのは大変さみしいです。
・ゆったり
・楽しい
・学術向けかエンターテイメントか、どっちかに的を絞るべきだと思う。メガスターなんかの評価はどうなんでしょ?
・夢
・最初は面白いがすぐ飽きる
・一番簡単にたくさんの星が見える
・オートメーション化された番組はつまらない。
・どっちかというと、お子様向け
・一般の方が天文学にふれるいい機会だと思う。
・星を見るところ
・残ってほしい
・天文に対する知識欲を満たしてくれるもの
・教育というよりはレクリエーションといったイメージ。
[コメント]
 全体の傾向としては、「天文について語ってくれる夢とロマンあふれるたまに行けばよいところ」といったとこだろうか。このプラネタリウムに対するイメージが、天文の学生をしてプラネタリウムでの普及活動をしにくくさせている原因のひとつなのではないだろうか。つまり、私達天文学を専攻する学生は、プラネタリウムは天文学をしているところではない、と認識していると言えるのではないだろうか。

[全体総括]
 天文学の普及活動の手段の一つとして、「プラネタリウムを使った普及活動」をするために基礎となるデータをとるのが今回のアンケートの目的であった。その結果、以上のような結果が得られた。これを素直に解釈すれば、「天文学を専攻する学生は普及活動に興味を持っているが、その手段としてプラネタリウムを使うということはあまり考えていない。なぜなら、プラネタリウムは子供向けで、科学をやっている場所ではないからだ。」と言うことができるのではないだろうか。もしそうであるのならば、話は簡単である。プラネタリウムでも科学が出来る、あるいはやっていることを積極的に宣伝し、プラネタリウムを使うことの長所をアピールすれば良いだけではないだろうか。プラネタリウムと学生を結びつける場、あるいは仕組みの創設を目指すべきであろう。
 このアンケートには問題点も多い。例えば、「天文学と社会」分科会で主に配布したために、もともと普及活動に興味を持っている人間が多くなるようにselection biasがかかっている可能性がある。どの程度のbiasがかかっているかは全体に対してアンケートを取り直す必要があるだろうが、少なくとも73人はこのアンケートに協力して下さっている事実は重視されるべきだと思う。また、設問の仕方もまずく、もっと統計処理に使える形でやるべきであった箇所も多々ある。今後のアンケートに生かしたい。
 最後になりましたが、アンケートにご協力してくださった皆様、どうもありがとうございました。
【文責:高梨 監修:平松 作成:ナツガリ】